126【KBH所属貴重本紹介】その28「リビングバイブル(The Living Bible/TLB)」

訳:Kenneth N.Taylor 出版社:Tyndale Hous Publishers,Inc.(Wheaton, Illinois)
発行年度:1979 蔵書番号:162 書架:B-3

「リビングバイブル」(The Living Bible,TLB)とは、アメリカの神学者ケネス・テイラーによって翻訳され、1971年に出版された英語版の聖書である。他の多くの聖書と違って、逐語訳から離れ、大胆な言い換え(パラフレーズ)を行っている。従来、伝統的な聖書は堅苦しい言葉で書かれていたため、子供や教育を受けてない人には継続して読むことができなかった。そこで、テイラーは彼らのために「アメリカ標準訳聖書(ASV)」(貴重本紹介その26参照)を元に、日常生活で使用される言葉を用いて数年かけて英語に翻訳した。新約聖書は1967年完成。旧約聖書も含めたものが1971年に出版された。この試みは好評を博し、1974年にはアメリカにおける年間聖書売り上げの46%を占めるに至ったという。TLBがASVを原本としていても両者の翻訳姿勢がいかに違うか、顕著にわかる例としてマルコ12:27で比較してみよう。

 ASV: He is not the God of the dead, but of the living: ye do greatly err. (神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神なのだ。あなたたちは大変な思い違いをしている)。
 TLB: God was telling Moses that these men, though dead for hundreds of years, were still very much alive, for he would not have said,“I am the God of those who don’t exist! You have made a serious error.”(これらの人たちは数百年前に死んでいたのに、神はモーセに彼らはなお生きていると教えられたのです。そうでなければ、すでに存在していない人の「神である」などとおっしゃるはずがありません。あなた方はこの点で決定的に間違っています)。

 このように、TLBはギリシア語原本からではなく英訳されたASVを原本としているためギリシア語の原著が言おうとしなかったものを読者に与える可能性がある。また、テイラーは自らの福音的神学に基づいて原著の明解でない部分に原本にない説明文を加えて意味を明確化している。こうした観点から幾つかの問題点を指摘できるが、キリスト教の普及に、特に英語圏の読者に対してTLBが大きな貢献をしてきたことは否定できない。日本では、TLBは「リビングバイブル」として、「いのちのことば社」から翻訳、刊行されている。

(聖書翻訳の歴史p.55、革新的聖書論考p.205~p.207 展示委員 池田憲廣)