133【KBH所蔵 貴重本紹介】その35「改訂版ドイツ語訳チューリヒ聖書ツヴィングリ訳1991」

Die Zurcher Heilige Schrift des Alten und Neuen Testament Nach Der Ubersetzung Fuldrych Twingri
蔵書番号:198 出版年:1991 出版地:Zurich
出版社:チューリッヒ聖書協会 Der Zurich Bible Gesellshaft書架:B-4

 「チューリヒ聖書」はフリドリッヒ・ツヴィングリ(Huldrych Zwingli 1484~1531)によるドイツ語訳新旧聖書である。ツヴィングリはルターと同時代のスイスの宗教改革者であって、ルターの活動に感化され、1520年代にチューリヒにおいて宗教改革運動を実施した。本書の翻訳作業はツヴィングリと彼の友人であるレオ・ユート(Leo Jud)および聖ペテロ教区の牧師達が中心となって行われた。発端となったのはチューリヒの聖職者をすべて集め、土日を除いて毎日行われていた聖書解釈のための研修会で扱われる資料書「預言 Prophezey」である。

 新約聖書は1525年から1529年に印刷所に納められたが、旧約聖書はツヴィングリの編纂による概要を盛り込むことによって1531年に初版印刷に到った。その後、旧約聖書は1540年に、新約聖書は1574年に翻訳の修正が行われ、1589年に章節の番号付けが加えられた。

 ツヴィングリはチューリヒに神聖政治を確立しようとした。「聖書のみ」を信仰の基準とし、信仰そのものが大事だと説き、万人祭司説を説いたことはルターと変わらなかったが、それ以外の部分においてルターと意見を異にしていた。

 彼とルターはマールブルク会談で多くの論点について合意したが、聖餐論で一致することができなかった。彼は次第に孤立し、その後カトリック諸州との内戦の中で戦死した。

 マタイ5:5「柔和な(へりくだった)人々は幸いである、その人たちは地を受け継ぐ」の「柔和な人々」を、彼は人の性格や態度ではなく、力を持たない人、力を失った人、無力な人といった、権力や暴力と無縁な人々(Die Gewalt losen)と訳している。

 このように彼には200を越える独自(秀逸)な解釈がある。彼はルターと並んで宗教改革の初期の立役者の一人であり、彼の残したものは、今日も改革派教会の信仰告白、礼拝、教会などの内に見る事が出来る。スイスでは、チューリヒ聖書は改革派教会で用いられる一般的なドイツ語訳聖書である。また、本改訂版はドイツ語圏全体で学術的な注釈書として言語愛好家の間で人気がある。

(「聖書翻訳の歴史」 p.66~71 展示委員 池田憲廣)