123 KBH所蔵 貴重本紹介 その25「ベリー候の豪華時祷書」

「ベリー候の豪華時祷書」
〈解説〉レイモン・カザル 〈訳〉木島俊介
蔵書番号:877 書架E-6 発行:中央公論社 発行年:1989

本書はキリスト教徒が用いる祈祷文、賛歌、暦などからなる聖務を記した日課書である。本書は特に装飾を施し、贅を尽くしてあり、本書の作成をランブール兄弟(フランドルのミニアチュール画家の兄弟)に依頼したベリー候ジャン1世(仏:Les Tres RichesHeures du Duc de Berry)は、中世フランス王国の王族である。15世紀初めに依頼し、制作が始まったが、1416年に兄弟両名が死去したため一時中断し、同世紀の終わりにようやく完成した。羊皮紙206葉で、1頁のサイズが29×21cm。時祷書は私的なものであり、各人が趣向をこらして作成することがあった。中でも本書は国際ゴシック様式の傑作でもあり、最も豪華な装飾写本として高く評価されている。本時祷書は6部以上現存している。他にメトロポリタン美術館所蔵「ベリー候の美わしき時祷書(Les Belles Heures du Duc de Berry)」というのもあり、この方が早く(1413年以前)制作され、ランブール兄弟が完成させている。また、「ベリー候のいとも美わしき聖母時祷書」は、トリノ市立図書館とパリ国立図書館に分蔵されている。この時祷書は、フランス王ルイ・フィリップの四男オマール公アンリが1855年にジェノヴァで購入する。それからしばらくはシャンティイ城に所蔵されていたが、1897年にはオマール公爵家からフランス学士院に寄贈され、現在はシャンティイ城にあるコンデ美術館附属図書館に非公開で所蔵されている。最もよく知られているのは、最初のカレンダーの部分だが、その後にも福音書の抜粋場面、時課等が続く。いずれも極めて美麗であり、保存状態も申し分ない。画法も様々なタッチのものがあり、部分図では印象派を思わせるものさえある。風俗資料としても超一級。細部に至るまで文章が練り上げられ、また彫琢(ちょうたく:宝石などを研磨加工し画面に貼り付ける)により装飾されており、見飽きることがない。(展示委員 池田憲廣)

尚、貴重本に使用されている時禱書の「禱(とう)」はパソコン、タブレット、スマートフォンなどのOS等によって表示に可不可がある「環境依存文字」のため、敢えて共通表示できる「祷」を使っています。ご了承ください。