131【KBH所蔵 貴重本紹介】その.33「ビブリア・ゲルマニカ ルター訳聖書1545」復刻版 後半

(Biblia Gelmanica 1545 Die Heilige Schrift Nach Der Ubersetzung D.Martin Luthers)
その2 蔵書番号:189 出版年:1983 出版社:ドイツ聖書協会 Deutsche Bible Gesellscaft 出版地:Stuttgart 書架:B-3
(本書は1545年に刊行されたルター訳旧新約聖書の写真リプリント復刻版である。)
(前回の続き)
しかし、ルターはこれを拒否した。この決意表明によりルターは帝国追放の処分を受ける。これはルターの生死を帝国は問題にしないという意味である。ルターの身を案じた彼の住む領地の領主ザクセン侯フリードリヒは彼の身を守るため、ヴァルトブルク城に彼を匿(かくま)った。ルターはこの匿われた時間を利用して新約聖書の翻訳に取り組む。
底本はエラスムスのギリシア語・ラテン語対訳本であった。こうして翻訳された聖書は同僚のメランヒトンらとの推敲の末、1522年9月に印刷、刊行される。これが「9月聖書」と呼ばれる、ルター訳ドイツ語聖書の初版本である。1534年には旧約および旧約続編(外典)が翻訳される。
こうして全聖書の翻訳が完了する。以後ルターは1546年に死去するまで同僚の学者らと共に改訂を続けて行く。
しかし、ルターの死後においては、様々な意図的、非意図的改変がなされたため、決定版が求められるようになった。そこで、1581年ザクセン侯アウグストⅠ世の命令で、ルターの死の前年に改訂された1545年版をもって決定版とすることになった。それが今回紹介する「ルター訳聖書1545年版」である。ルター訳聖書の特徴は、その文章構成において、口語に近いような短くて含蓄のある文章を創造したこと、そして他方では、官庁で使われる統一的な言葉つまり、「一般的ドイツ語」を採用したことである。
ルターは古代の文体論や修辞学の遺産を好んで用いたが、このことは彼の聖書が記憶に残りやすくなることに貢献した。ルター訳聖書によって、ルターは単に地域語であった東中部ドイツ語を、発祥の地を越えて全ドイツに普及させ、その結果近代ドイツ語の基礎を築くことになった。
ルター訳聖書はドイツ語訳聖書の主流となったのである。
(聖書翻訳の歴史p.59~67 展示委員 池田憲廣)