129【巻頭言】KBH理事 鎌野 直人 師「生きていることは素晴らしい」

クリスチャンセンター 神戸バイブル・ハウス 理事
関西聖書神学校 校長
日本イエス・キリスト教団 神戸中央教会 副牧師
鎌野 直人 師
「生きていることは素晴らしい」
わたしの心を捉えて放さない聖書の書の一つに「コヘレトの言葉(伝道者の書、伝道 の書)」があります。「若き日に、あなたの造り主を心に刻め」(12:1)とか「天の 下では、すべてに時機があり すべての出来事に時がある」(3:1)が有名な書です。「空の空、空の空、一切は空である」(1:2)で仏教の思想と近いのかな、と言われたりもします。
様々な格言なども含まれているこの書の中で印象深い一つの格言に、「生きている 犬のほうが死んだ獅子よりも幸せである」(9:4)があります。「腐っても鯛」ではな く、「腐った鯛より生きているメダカ」です。当時の社会において犬は卑しい存在であ ると考えられていたことを踏まえると、立場の低さなどどうでもよい、生きていること がなによりも素晴らしいのだ、という意味だとわかります。ひっそりではありますが、 コヘレトの言葉は「生きよ」と訴えるのです。
なぜこんなことが言えるのでしょうか。「生きている者は死ぬことを知っている。け れども、死者は何一つ知らず、もはや報いを受けることもない」(9:4)と続いていま す。死ぬことを知っているだけで生きている者は有利だ、というのです。「メメント・ モリ」(死を覚えよ)という有名なラテン語のフレーズを思い起こさせます。少なくと も、いつか死ぬことを前提に、今の時代を生きることができるからでしょう。
いつの時代も人はあらゆるものが「永遠に残る」と思います。そのために、いろいろ なことを先延ばしにしてしまいがちなのでしょう。しかし、必ず死ぬという前提で今の 「生」を組み立てることができたら、もっと実りある人生になるのかもしれません。 バイブル・ハウスが大切にしている聖書は、ちょっと意外な側面から、人生をどのよ うに操縦したらいいのか、知恵を与えてくれるものなのです。