132【KBH所蔵 貴重本紹介】その34「ルター訳新約聖書ヴィッテンベルク版1522」復刻版

(Das Neue Testament Deutsch Wittenberg 1522 Die Heilige Schrift Nach Der Ubersetzung D.Martin Luthers)
蔵書番号:193 出版年:1994 出版社:ドイツ聖書協会 Deutsche Bible Gesellschaft 出版地:Stuttgart 書架:B-4

本書は1522年に刊行されたルター訳新約聖書「九月聖書」の復刻版である。
1522年3月、ルターはヴァルトブルク城で書き上げた新約聖書のドイツ語訳原稿をヴィッテンベルク大学に届け、同僚のメランヒトンらと協力して推敲、同年9月に印刷を完了し、3000部が市販された。翻訳者、印刷者、出版者の名もなく、年月も記されず、ただ下方にヴィッテンベルクと市名が記されているだけであった。出版時が9月であったので、「九月聖書」と呼び慣わされている。定価は1グルテン半で、当時は子牛一頭がこの値段で買えた。おそらく現在の価格で4、50万円に相当しよう。
この値段では一般庶民には手が出ず、買えたのは教会や富裕層の市民達であった。しかし非常な歓迎をもって迎えられたため、すぐに売り尽くされ、3ヶ月後には再版されている。

教会で朗読されるルター訳聖書を通して、当時の民衆は、はじめてイエス・キリストの言葉を自分たちの理解できる言葉で聞いたのである。その衝撃と喜びはいかなるものであっただろうか。ルター訳聖書の特徴の一つは、福音書や書簡にそれぞれ、序文がつけられていたことである。これらの序文は、聖書各書を読むための内容の手引きであり、読者の立場から信仰と理解のための助けとなる配慮がなされていた。

本書が評判になると、これに対抗してローマカトリック教会もドイツ語訳を試みたが、聖書理解の深さや普及力の点でルター訳に遠く及ばなかった。その後500年、ドイツにおいて、様々な翻訳が試みられてきているが、ルター訳をもって、最高のドイツ語翻訳とする評価は今後も変わらないであろう。


(「マルティン・ルター」岩波新書 徳善義和著 p.101~103、「聖書翻訳の歴史」 p.63、70~71 展示委員 池田憲廣