121【巻頭言】「新しいエバ」鎌野 直人師

クリスチャンセンター神戸バイブル・ハウス理事
関西聖書神学校校長
日本イエス・キリスト教団神戸中央教会副牧師

鎌野 直人師

マリアへの受胎告知は様々な画家によって描かれ、教会を飾っています。これらの中でも名作と呼ばれるものの多くは、鳴門にある大塚国際美術館で陶板画として展示されています。数多くの受胎告知の絵の中でも「聖女マルガリータと聖アンサヌスのいる受胎告知」と呼ばれるシモーネ・マルティーニとリッポ・メンミによるものはたいへん興味深いものです。天使ガブリエルがマリアに向かってイエスの受胎の告知をしている典型的な構図をしているのですが、他の作品とは異なり、ガブリエルの口からマリアの耳に向かって「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる」(ルカ1:28)ということばがラテン語で投げかけられているのです。あたかもマンガの吹き出しのように聖書のことばが書かれています。

なぜ天使のことばはマリアの耳に向かって語られているのでしょうか。マリアが救い主の母としての役割を果たすことができたのは何よりも彼女が主の言葉をその耳で聞いて、それに従ったゆえであることを示そうとしたからです。罪の歴史に救いをもたらすきっかけは、聞くことから始まる神のことばへの従順なのです。

創世記3章ではエバが主のことばに不従順であったことが原因で、罪の歴史は始まったことが記されていました。しかし、その歴史は、マリアの主のことばへの従順から実現したキリストの受肉によって、解決の道が開かれました。ですから、紀元2世紀の神学者エイレナイオスは「エバの不従順によってできてしまった結び目は、マリアの従順によって解かれた」と述べています。マリアこそ新しいエバであり、来るべき新しいアダムであるキリストの働きのきっかけなのです。

キリストの誕生を覚えるこの季節、受胎告知の絵画を眺めつつ、主のことばへのマリアの従順を黙想したいと願っています。