115 KBH所蔵 貴重本紹介 その17 神戸バイブル・ハウスへの献金者 新契約聖書 永井 直治訳

1928(昭和3)年初版 礼拝・講義室の棚C所蔵 蔵書番号316

永井(1864~1945)の訳した本書は、ロベルト・ステハヌスが1550年に出版したギリシア語聖書第3版をF.スクリブナーが1872年に刊行した本を原本に、20年以上にわたって、語を追って直訳し、ステハヌス以後のギリシア語聖書修正や変化を含め、一冊にまとめた聖書である。

永井は浅草教会の牧師館で人知れず内外の困苦と戦いながら、原語の一語一語を丹念に翻訳し、本書を完成した。本文は文語直訳体である。

内村鑑三は本書初版の序言で次のように述べている。「君の訳は在来の所謂委員訳と全然異なる。数人の作に非ずして一人の作である。西洋人が原語を解して日本人が之を綴りしものにあらず、(中略)君は世界第一の書たる聖書の日本化を試みられたのである(後略)」。

永井訳は日本人単独の訳になる完訳新約聖書であり、英訳聖書、漢訳聖書及び従来の外国人の協力による和訳聖書の影響を受けず、日本人単独でギリシア語原典からのみ翻訳した聖書として特筆され、今もギリシア語聖書の研究には参照されている。

なお、この聖書は1932(昭和7)年の第3版まで改訂され、戦後は1960(昭和35)年に修正版、1992(平成4)年に新改版が発行された。写真は初版本の内容とその表紙である。(「聖書翻訳の歴史」p.200~202より抜粋)。

(展示委員 池田憲廣)