KBH所蔵貴重本紹介_その15 エミール・ラゲ訳(我が主イエズス・キリストの)新約聖書
1910(明治43)年 鹿児島 公教会刊行
今回は玄関ロビーのケースC上段のラゲ訳新約聖書を紹介する。本書は明治期のカトリックの代表的な和訳聖書である。訳者エミール・ラゲ(Emile Raguet 1854~1929)はベルギー生まれのカトリック司祭・神父で、パリ外国宣教会より宣教師として1879年に日本に派遣された。1905年頃より、加古義一伝道師の補佐を得て、和訳に着手した。
ウルガタラテン語訳聖書を底本とし、ギリシア語聖書、その他明治訳聖書、高橋五郎訳聖書等を参考に、新約の全体を文語体で翻訳した。その後、小野 藤太、武笠 三(が かさ さん)(七高教授)、山田 準(二松学舎教授)らの協力により、修辞訂正を加え、1908年より出版された。
植村 正久が次の読後感を述べているようにかなりの名文である。「うち見たるところ文章も雅馴にて、口調善く、用語も改まりたる所多く、旧の聖書に比べて数段の進歩なり」。
この新約聖書は長く日本のカトリック教会の標準訳聖書の役割を果たした。これ以前は高橋 五郎訳が用いられてきた。ラゲは1905(明治38)年、佛和會話大辭典(編訳、小野 藤太との共訳)を天主公教会より刊行しており、1925(大正14)年、日仏文化交流への貢献に対し日本政府より勲五等旭日章が贈られている。
1929(昭和4)年、東京で死去。本聖書の奥付に印刷者は村岡 平吉となっている。彼の息子儆三の妻は「赤毛のアン」シリーズの翻訳で有名な村岡 花子である。
(展示委員 池田憲廣)