KBH所蔵貴重本紹介 その4:新約聖書 ルターによるドイツ語訳 (1967年復刻版)
マルチンルターによって初めてドイツ語に訳された新約聖書。ドイツ民衆はこれによって初めて聖書の内容を理解できるようになった。1545年版
1545年、ルターによって初めてドイツ語に翻訳された新約聖書の復刻版(1967年刊行)
表題はBIBLIA GELMANICA 1545となっており、1545年に刊行されたルター聖書とわかります。また、本聖書の出版元はDeutsche Bibelstiftung Stuttgart1967となっておりますので、1967年に刊行されたルター聖書の復刻版であることもわかります。原本は高価ですので、当バイブルハウスではとても購入できません。
宗教改革者マルティン・ルター(1483~1546)は、ヴォルムス帝国議会からヴィッテンベルクへの帰路、ザクセン選帝侯フリードリヒバイオリン賢公の誘いによって、ヴァルトブルクに招かれます。当地で「ユンカー・イェルク(Junker Jörg)」として潜伏しつつ、ルターは新約聖書のドイツ語翻訳を開始しました。出版は1522年9月なので「九月聖書」とも呼ばれています。続いて旧約聖書(続編アポクリファを含む)も1534年に完成しています。
ルターは聖書各巻の前文にその巻の神学的意義や批評も書き込んでいます。この前文はとても面白くて、例えば、「詩篇」は信仰者の心が直接伝わってくるとして激賞していますが、「ヤコブの手紙」は、良き行為を推奨することのみを述べているので、藁(わら)のような手紙だとけなしています。さすがにこの批評はまずいと思ったのか、改訂するときには削っています。ルターは決して理性だけの人ではない、情熱の人だったことが、このことからもわかって彼の人間味にほほえましさを感じてしまいます。
その後数年に亘ってこの聖書は少しずつ拡張され、改稿されていきました。そして1545年、ルター自らによる最後の修正が行われました。ルターの訳したこのドイツ語訳聖書は、人々が親しみやすい文体や用語が用いられており、英国のキングジェームズ欽定訳が英文学に与えたのと同様、ドイツ文学にも大きな影響を与えています。その後多くの改訂が加えられながら、現在でも広くドイツ語圏で用いられています。
2020.9.1(展示委員会 池田 憲廣)