KBH所蔵貴重本紹介 その3:旧約聖書 ヴルガタ全訳
今回は、玄関ロビーのケースNに展示の貴重本を紹介したいと思います。ここには次の「ヴルガタ」と呼ばれる聖書が陳列されています。
旧約聖書
- ヴルガタ全訳 第一巻 1018頁 創世記~ルツ記 1954
- ヴルガタ全訳 第二巻 1128頁 サムエル記上~ヨブ記 1955
- ヴルガタ全訳 第三巻 679頁 詩篇~シラ書(集会の書) 1957
- ヴルガタ全訳 第四巻 1106頁 イザヤ書~マカバイ記 1959
旧約聖書は、初めはヘブライ語(一部アラム語)で書かれていましたが、ヘレニズム期になると、当時の世界共通語となったギリシア語に訳されました。そしてローマ帝国期には、これも当時の世界共通語であったラテン語に訳されました。このように、聖書はその当時の支配的言語、即ち大多数の人々が読める言語に次々と訳されていったことがわかりますね。しかし、このラテン語訳は、計画的、組織的に訳された訳ではなく、個人個人が好き勝手に訳していましたので、粗悪な訳が横行しておりました。そこで、ローマ教皇ダマスス1世は当時最高の聖書学者ヒエロニムス(340頃~420年)にラテン語訳新約聖書の決定版をつくることを依頼します。ヒエロニムスは、382年頃、新約聖書をギリシア語原本からラテン語に訳します。そして旧約の部については390~405年に、ヘブライ語から翻訳しました。このようにして成立したヒエロニムスによる聖書のラテン語訳がいわゆるヴルガタ聖書です。ヴルガタ聖書は、意味の明解さと、文体の華麗さにおいて、従来のラテン語訳を遙かに凌ぐ出色の出来となりました。彼の訳業は時代を経るに従って、評価が高まり、5世紀にはヴルガタは西方世界では名の通ったものとなり、中世においては全西方教会の聖書となりました。即ち、西方教会に共通(ヴルガタ)して用いられた聖書です。ヨハネス・グーテンベルクが西洋における印刷技術を確立し、その成果として1455年、世に問うたのが、ヴルガタ聖書の印刷本であるグーテンベルク聖書です。これ以降、ヴルガタ聖書は、それまでよりも多くの人に読まれるようになりました。当所に展示されているヴルガタ聖書は「光明社」と言うカトリック系の出版社(本社・札幌市)が翻訳、刊行したヴルガタの旧約聖書の全訳です。
(展示委員会 池田憲廣)